沖縄奇譚

短い期間、沖縄に住んだ記憶

エイサー

テレビでしか見たことはなかった。それゆえ派手な衣装と踊り、力強い太鼓というステレオタイプのイメージを持っていたが、赴任して数日後、それは自分の誤解であることに気付いた。

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よく見かける「エイサー」
第1話で触れたように、自分の住まいは中部、それも中核都市とはいえ那覇に対しては地方である。
エイサーというのはどの地方から順に伝わったかなどの理由で、地域ごとに強い特色がある。赴任したのは丁度エイサーが盛んな8月だったので、東京からのこのこ現れた自分は、地元うるま市、平敷屋地区のエイサーにお呼ばれしたのである。
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平敷屋のエイサー

内容はインパクトの連続だった。まず、衣装が地味、原色が使われていない。次に踊りが地味、飛び跳ねたりしない。こちらのエイサーは歴史も長く、観光ずれしていないため、とても地味な形が保たれている。「オーソドックスな」という表現を使おうと思ったが、那覇の方々にとってはこちらがオーソドックでない…というご意見もあろうかと思うので、あえて地味、という表現にした次第である。
地域によって違うエイサー、年に一度、「全島エイサー」があるのだが、以前は順位が付けられていたらしい。平敷屋のエイサーはレベルが高く、連覇した歴史もあるとのこと。ある時期から順位はなくなったそうだが、その原因は順位が気に入らなかった踊り手が暴力に訴え暴動になったから…、という話を聞いた。ホントかな?と思い地元の区長さんに聞いてみると、「ほんとだよ、だって殴り合いにしたのは自分達だから(笑)」と屈託なく語ってくれた。

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泡盛の振舞い
で、祭りの間中地元の皆さんは泡盛を飲み続ける。それも一族郎党が集まって楽しく、和気あいあいと。古き良き時代の日本の大家族社会がここには残っており、会場全体が演舞場であり居酒屋状態である。時折踊り手が甕酒を振舞って回るのだが、「子供は飲まないで下さい!」という主催者側のアナウンスが入るほど、老若男女、分け隔てなくみな楽しんでいる。ちなみに、この会場へはほとんどの人が家族で車に乗ってやってくる。みんな飲んでしまったら誰が運転するのか…、野暮な疑問ではあるが、沖縄特有の「運転代行」を総動員してもこの台数は捌けないだろう。
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平敷屋のエイサー
平敷屋のエイサーは福島の僧侶が伝えた念仏踊りに起源があると区長さんが教えてくれた。そういえば衣装も太鼓もそんな感じがしてくる。気になったのは頭巾。インドネシアのブギス人(海洋民族)の頭巾に似ている。区長さんに尋ねると、遠い昔から南の島々とは交流があると言われているので、頭巾は共通のものかもしれないね…、と言っておられた。
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コンビニ前のエイサー
こんな全体的な祭りとは別に、旧盆の季節、エイサーは深夜まで町内を回り続ける。スーパーだったりスナックだったり、公園だったり、地元のリクエストに基づいて、振る舞い酒とともに踊りは続く。深夜まで続く太鼓の音と住民の拍手喝采
文字通り真夏の沖縄の風物詩、観光地では味わえない、伝統の「音」と「汗」を間近に体験できる。